From A Thousand Plateaus
ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ「千のプラトー」
初出
Gilles Deleuze et Felix Guattari,Mille Plateaux:Capitalisme et schizophrénie,Minuit,1980
邦訳
『千のプラトー』, 宇野邦一,小沢秋広, 田中敏彦, 豊崎光一, 宮林寛, 守中高明 訳,河出書房新社,1994
Further Reading
Deleuze, Gilles, and Félix Guattari. Anti-Oedipus: Capitalism and Schizophrenia. Trans. Robert Hurley, Mark Seem, and Helen R. Lane. Minneapolis: University of Minnesota Press, 1983. From the French Capitalisme et Schizophrénie. L'Anti-Oedipe, Editions de Minuit, 1972.
Dogen, Eihei. Commentary by Taizan Hakuyu Maezumi. The Way of Everyday Life. Los Angeles: Zen Center of Los Angeles, 1978.
Introduction
『千のプラトー』はここ30年間、特に書くことについて影響力があるテキストである。このテキストはさまざまな分野において引用された。しかし、その多くは乱用であり、オリジナルのテキストの意味を損なう形で用いられた。編者はそれによって、Félix Guattari・Gilles Deleuzeのテキストが与えてくれる探求ができなくなってしまうと述べる。 特に、ソフトウェアの領域においては、Ted Nelsonが提唱したハイパーテキストがリゾーム的であるとして引用されてきたが、これらは断片的な引用にすぎない。編者は、オリジナルのテキストを読むことで、リゾームの議論をソフトウェアの議論からより広範に応用できると考えている。 また、編者らはGilles Deleuzeらの概念をより実践で利用することを推奨している。リゾームは善でも悪でもなく、ただそこにあるだけであり、流動的に変化するものである。二元論的な言説から逃れ、ラディカルであるためにも、リゾームという考え方は、実践されるべきであると編者は述べる。 本論
千のプラトーはドゥルーズとガタリによって2人で書かれたテキストがリゾーム状に配置された本(書物)である。 千のプラトーはドゥルーズとガタリの二人で書かれたテキストがリゾーム状に配置された本である。「2人で書く」とは、ドゥルーズとガタリの間でテキストを何度も往復することで増幅させることを指している。筆者らの境界を曖昧にし、そこから2人の「あいだ」を生み出し、その「あいだ」が自律的に動くことによって、この本は書かれている。 以下は、ドゥルーズ=ガタリ、『千のプラトー』の要約である。この抜粋部は短いが、彼ら独自の用語が散りばめられたテキストになっている。また、このテキスト自体が、リゾーム的に書かれているため、体系的な書かれ方をしていない。そのため、このテキストの読解は難解である。ここでは、全てを解説することはせず、リゾームの解説が行われている箇所に絞って、要約することにする 1.『千のプラトー』リゾームについて (pp.408-409)
【本の三形態】
一つ目は樹木=根的な本、二つ目は側根的な本、三つ目はリゾーム状の本である。 ドゥルーズが注目しているポイントは、統一性と多様体である。旧来の、樹木および側根的な本は、支配する上位と従属する下位という統一性のために、意味を生成する運動を書き、固定化されたままである。一方、リゾーム状の本は、中心も統一性も根源も持たない。そのため、さまざまに意味の変容が可能なのである。 ① 樹木的=根的な本
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樹木=根的な本の特徴
全体を統合する一つの概念があり、それに付随する概念たちは、上位概念の下位概念として存在する。樹木や根はこのタイプの本を説明するイメージである。樹木や根には、初めに根源となる中心が存在する。その要素が中心となり、副次的な要素はそこから子概念に分割することを繰り返すことによって増殖していく。
したがって、根的な本を支配する法則は、「一から二が生じる」というものである。一が二、二が四、と言う形で発展していく法則である。言語学においても、この法則は強固なものとして動作している。
例)
ノームチョムスキーの生成文法……チョムスキーは、文章(Sentense = S)は二つの要素に分解することで文章の要素を分析。
進化系統樹……「細菌」と「真核生物」を分類することからはじめ、生物を分類していく。
根的な本においては、常に下位概念が上位概念の統一を受けるため、多様体が生まれることはない。 ② 側根=ひげ根的な本
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側根=ひげ根的な本の特徴
中断された中心から多様な副次的な根が生じる。それらは分割の方法などは持たず、さまざまな方向へと分化していく。しかし、さまざまな方向へと分化しながら、それらをまとめ上げる統一的な存在を希求している。
つまり、統一的な存在を一時的に中断させながら、多様な意味を増殖させるが、その増殖した意味を統合する意味を別な次元で探しているということである。
例)
③ リゾーム状の本
①、②と対比される形で、リゾーム状の本について示されている。
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リゾーム状の本(本書)の特徴
千のプラトー(本書)は「リゾーム状の本」と定義される。この本にはいくつもの独立した章(プラトー)が存在している。それらは体系的な繋がりをもつものではない。プラトーは相互に関係や流れを持つ場合もあるが、それぞれが独立していて、本全体を通した「主題」は存在しない。 例)
千のプラトー:この本にはいくつもの独立した章(プラトー)が存在してて、それらは体系的な繋がりをもつものではない。 実のところ、〈多〉よ万歳、と言うだけでは足りないのだ、確かにこの叫びを発するのは難しいのだが。活字組みの、語彙の、あるいは統辞法のいかなる巧妙さも、この叫びを聞こえるようにするには足りない。〈多〉、それは作り出さねばならないのだ。(千のプラトーより引用)
著者らは、人間や社会システム及び世界全体をリゾーム的に捉えている。規範や善悪といった定義づけを批判し、流れの集合があるだけであると捉える。
リゾームの特徴として、著者らは以下の3点を示す。
リゾームの3特徴
① リゾーム内のある一点は、他の一点と接続する
この点と点はもともと関わりあるものだけではなく、関わりの薄いもの、関わりのないものとも接続することができる。
並列的に接続するだけでなく、より下位の次元と接続し多様化する。
② 要素が切り離されたり、接続されるたびにリゾームは性質を変えて変貌する
リゾームは点と点の間を結ぶ線によってなる集合というより、動きのある線によってできている群体である。 その線が近づいたり離れたり、接続したり、切断することで、リゾームの性質は変化する。 ③ リゾームは固定化された複写なのではなく、書き込み、意味が変化する「地図」である
ここでは動的な存在として「地図」という言葉が用いられている。 地図は現実をただ書き写すのではなく、書き込むことであらたに現実を構成するものである。
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時代背景/作者らの立ち位置
本書の立ち位置及び時代背景について以下に述べる。
1.第二次大戦後の経済発展と反体制運動
ドゥルーズとガタリの両者は5月革命(1968年5月)で活動を行ったのち、知り合い、本書を執筆している。5月革命は経済の発展の裏で広がった格差が背景にあるとも言われている反体制運動である。 第二次世界大戦後、各所でこうした反乱や運動、革命が起こっている。その背景には、経済発展を第一とすることで、市民の自由や思考が抑圧されてしまう国家体制や支配の在り方があった。こうした経済発展の弊害に対し、現代まで受け継がれる数々の思想(いわゆるポストモダンの思想)が台頭する。この時代の思想には、以下のようなものがある。
現代の権力は民を支配し、コントロールする(フーコー など)
支配者・権力者は民を効率よく支配するために、監視や抑圧といった手法を取る。(フーコー、パウロ・フレイレ)
また、ドゥルーズはフーコーとの親交が深く、彼や本書(及びアンチ・オイディプスなどの『資本主義と分裂症』シリーズ)の思想とフーコーの思想は近しい部分もある。 2.フロイトの精神分析に対する著者らの立ち位置
著者らはこれに対して「超自我や自我、イド/エスは存在せず、人の欲求や心はこのように簡単に分類できるものではなく、もっと自由な流れの集合である」と主張している。また、フロイトの精神分析は人間の欲望を統制し、支配の中に閉じ込めてしまうものであると主張する。
参考文献
芳川泰久・堀千晶,2015,『ドゥルーズ・キーワード89 増補版』,せりか書房. ISBN:9784796703390
千葉雅也,2022,『現代思想入門』,講談社. ISBN:9784065274859
國分功一朗,2013,『ドゥルーズの哲学原理』,岩波書店. ISBN:9784000291014000